事業承継の生前贈与で失敗しないために:遺留分の「基礎財産」をやさしく解説

事業承継や資産承継を考えるとき、「生前贈与で早めに渡しておけば安心」「節税にもなる」と感じる方は多いと思います。ところが、相続の場面では“遺留分”という仕組みがあり、やり方次第では、あとからお金の請求(遺留分侵害額請求)につながることがあります。ここでは、税務に詳しくない方でもイメージできるように、「遺留分を計算するための元になる財産(遺留分の基礎財産)」がどう決まるのかを、噛み砕いて説明します。
まず遺留分の計算は、ざっくり言うと「亡くなった時点で持っていた財産」に「一定範囲の生前贈与」を足して、そこから「借金などの債務」を引いて作った“土台”からスタートします。この土台が大きいほど、遺留分の金額も大きくなりやすい、という関係です。
遺留分の土台に入る「亡くなった時点の財産」は、基本的にプラスの財産全般です。不動産、預貯金、有価証券、事業用資産などが対象になります。遺言で誰かに渡すと決めていた遺贈の財産も、考え方としてはこの土台に含まれます。一方で、法律上“相続財産とは別扱い”になっているものもあり、例えば系譜や祭具、お墓などの所有権は、遺留分の基礎財産には入りません。
次にポイントになるのが生前贈与です。「贈与は節税に使える」という話はよく出ますが、遺留分の計算では、贈与がまるごと無関係になるわけではありません。誰に贈与したか、いつ贈与したかで、土台に“足し戻される”範囲が決まります。
相続人“以外”の人に贈与した場合は、原則として相続開始(亡くなること)の前1年以内の贈与だけが、遺留分の土台に加算されます。ただし例外があり、贈与した側ともらった側の双方が「遺留分を持つ人に損害を与える」と分かっていながら贈与したときは、1年より前の贈与でも加算されることがあります。取引の安全と、遺留分による最低限の取り分の確保、そのバランスを取るためにこうしたルールになっています。
一方、相続人“に”贈与した場合は少し扱いが違います。原則として、相続開始前10年以内にした贈与のうち、婚姻や養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与(いわゆる特別受益にあたるもの)に限って、遺留分の土台に加算されます。そしてここでも例外として、当事者双方が「遺留分を持つ人に損害を与える」と知って贈与したときは、10年より前の贈与でも加算される可能性があります。
事業主の方が特に注意したいのは、後継者に自社株や事業用資産を生前贈与するケースです。事業承継ではよくある王道の動きですが、内容によっては「生計の資本としての贈与」として特別受益に該当しやすく、相続開始前10年以内の贈与だと遺留分の土台に足し戻されることがあります。つまり、税務面では早めの移転が有利に見えても、相続面では“遺留分の火種”が残ることがある、ということです。節税だけで設計してしまうと、相続発生後に「結局お金を支払うことになった」「資金繰りが苦しくなった」という展開も起こり得ます。
そして土台から差し引かれるのが、被相続人の債務です。ここでいう債務は、金融機関からの借入のような私法上のものだけでなく、税金などの公租公課といった公法上の債務も含まれます。つまり、借金がある場合は遺留分の土台がその分小さくなる方向に働きます。
最後に評価の考え方です。遺留分の土台に入る財産は、基本的には客観的な価値、つまり取引価格をベースに評価します。評価の時期は原則として相続開始時(亡くなった時点)です。条件付きの権利など評価が難しいものは、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価を使うことがありますが、一般的な資産は「その時点でいくらと考えるのが合理的か」を基準にするイメージで大丈夫です。
まとめると、遺留分対策と節税対策は“別物”ではなく、セットで考えないと後からズレが出やすい分野です。生前贈与は上手に使えば強い一方で、「誰に」「いつ」「どんな名目・性質で」渡すかによって、遺留分の計算上は足し戻しの対象になり得ます。特に自社株や事業用資産の承継は、税務・法務・資金繰りを一体で設計するのが安全です。節税の話を進めるときほど、相続発生後に揉めない形になっているか、遺留分の“土台”に何が入るのかを一度整理しておくと安心です。
※この記事は税理士事務所の見習いスタッフが日頃の業務で感じたことや素朴な疑問をコラムとして掲載しております。念のため専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は責任を負いかねますので、個別具体的な案件に関する疑問やご相談がある場合には、弊所代表税理士「うめちゃん先生」まで直接問い合わせを頂くか、「お問合せフォーム」からお問合せ下さい。無料相談会も随時実施していますので(完全予約制)お気軽に活用ください。
「うめちゃん先生」ってどんな人? うめちゃん先生のご挨拶動画はこちら
シェアする