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遺留分の額を計算する基礎となる財産の算定


遺留分の計算に使われる「基礎財産」という言葉は、相続や事業承継を考えるうえでとても大事なのに、一般の説明だとどうしても堅くて分かりにくくなりがちです。ここでは、事業主や資産家の方が、生前贈与や節税対策を考えるときに最低限知っておきたいポイントに絞って、できるだけやさしく整理してみます。
※あくまで法律の一般的な仕組みの話なので、実際の対策は税理士・弁護士など専門家と一緒に検討してください。
まず、「遺留分(いりゅうぶん)」とは、配偶者や子などの相続人に法律上保証されている“最低限もらえる取り分”のことです。どれだけ遺言や生前贈与で財産を動かしていても、この遺留分を侵害してしまうと、相続人から「遺留分を侵害しているのでお金を返してほしい」と請求される可能性があります。
では、その遺留分を計算するときに「元になる財産」、つまり基礎財産はどのように決まるのでしょうか。
イメージとしては、次のような計算をして「遺留分の基礎となる財産」を出します。
亡くなった時に残っていた財産
+ 生前に贈与した財産の一部
- 亡くなった人の借金(債務)の全額
この結果が「遺留分算定の基礎財産」です。ここから、配偶者や子の法定相続分に応じた割合を掛けて、各人の遺留分額を出していきます。
ここでポイントになるのが「どこまでを“生前贈与した財産”として足し戻すのか」という点です。節税や事業承継を考える方ほど、生前贈与を積極的に使われていると思いますが、その贈与が遺留分計算の土台に戻ってきてしまうことがあります。
まず、相続人以外(たとえば内縁のパートナーや第三者、法人など)に対する贈与は、原則として「相続開始前1年以内のもの」が基礎財産に加算されます。つまり、亡くなる直前の1年間に大きな贈与をしていると、「遺留分を減らすためにやった」と見なされやすく、その分は遺留分計算に引き戻されるイメージです。
さらに、贈与した本人と受け取った側の双方が「これは遺留分の権利者に不利な行為だ」と分かっていてやった場合には、1年以上前の贈与でも基礎財産に入ってしまう可能性があります。極端な“駆け込み贈与”や、特定の人だけを厚遇する形の贈与は、後で争いの火種になりやすいということです。
次に、相続人への生前贈与についてです。こちらは少し扱いが違います。相続人に対する贈与のうち、婚姻や養子縁組のため、または「生計の資本」となるような贈与(事業資金、マイホーム購入資金、自社株の大量贈与など)は、原則として「相続開始前10年以内」のものが基礎財産に加算されます。
そして、やはりこの場合も、贈与した本人と受け取った相続人の双方が、遺留分権利者に損害を与えることを知っていたと判断されるような事情があれば、10年以上前の贈与も加算対象になり得ます。
事業承継でよくあるのが、後継者となる子どもに対して、自社株式や事業用不動産を順次贈与していくケースです。これは通常「生計の資本としての贈与」とみなされ、特別受益として扱われます。そして、相続開始前10年間に行った分については、遺留分計算の基礎財産に戻される可能性が高いと考えておくべきです。
つまり、「相続税対策として早めに株を移しておけば安心」と思っていたとしても、その一部は遺留分の観点では“カウントされる”ことになり、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けるリスクがあります。節税だけを見て贈与を進めると、「相続税は減ったけれど、兄弟姉妹から多額の支払いを求められた」という結果になりかねません。
一方で、遺留分の基礎財産からは外れるものもあります。たとえば、系譜や祭具、墳墓(お墓)の所有権などは相続財産とは別枠で取り扱われるため、遺留分計算には入れません。また、亡くなった人の一身に専属するような権利も含まれません。
逆に、亡くなった時点で遺贈していた財産(遺言で特定の人に渡すとされていた財産)は、原則として相続開始時の財産として基礎財産に含まれます。死因贈与についても、通常は同じように扱われます。
さらに見落としがちなのが「債務」の扱いです。遺留分の基礎財産を計算するときには、亡くなった人の債務は私法上の借金だけでなく、税金などの公法上の債務も含めて、全額を差し引くことになります。事業主の方の場合、会社との貸し借りや個人保証、税金の未納分などが絡んでくることも多いため、どこまでが債務として控除されるのかを整理しておくことが重要です。
同じ「純資産がいくら」という状況でも、債務の内容次第で遺留分の金額が変わってきますから、相続対策の段階でバランスシートをきちんと把握しておくことが、実は節税だけでなく“争族対策”としても有効です。
最後に、財産をいくらとして評価するか、という問題があります。条件付きの権利や、残りの期間がはっきりしない権利などについては、家庭裁判所が選任する鑑定人による評価に従って価格を決めることになります。
それ以外の財産、例えば不動産や株式、現預金、非上場株式などについては、特別の規定がない限り「客観的な取引価格」に基づいて評価していくことになります。不動産であれば路線価、固定資産税評価額、市場価格など、相続税評価とはまた別の視点が絡むこともあり得ますので、「税務上の評価」と「遺留分の場面で問題になる価値」は必ずしも同じではない、ということだけは頭に入れておくとよいでしょう。
まとめると、生前贈与や事業承継による株式移転は、節税の観点からは非常に有効な手段であり、多くの事業主・資産家の方が実践されています。ただし、その一方で、遺留分という“最低限の取り分”を保障するルールがあり、そこでは「相続開始前10年」や「相続開始前1年」といった期間の生前贈与が、基礎財産として足し戻される可能性があるという点を無視することはできません。
節税だけでなく、将来の家族関係や、後継者の資金繰りまで含めてトータルで考えることが、結果的にはもっとも賢い「財産の守り方」につながります。具体的な贈与や遺言、事業承継スキームを検討するときには、必ず専門家に「遺留分の基礎財産にどう影響するのか」という視点も一緒にチェックしてもらうことをおすすめします。










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