「もし自分に万が一のことがあったら、家族はそれぞれどれくらい財産を受け取るのか?」

■相続分ってそもそも何?
「もし自分に万が一のことがあったら、家族はそれぞれどれくらい財産を受け取るのか?」
この“取り分”のことを法律では「相続分」と呼びます。
事業主の方や資産をお持ちの方にとって、相続分の仕組みをざっくり理解しておくことは、節税だけでなく“争族”を防ぐためにもとても大事です。ここでは、専門用語をできるだけかみ砕いてお話しします。
■相続分は「遺言があるかどうか」でまず分かれます
相続分は、いきなり法律で決まるわけではありません。
いちばん優先されるのは、被相続人(亡くなった方)が遺言で決めた内容です。
「妻に多めに渡したい」「事業を継ぐ長男に会社の株を集中させたい」といった希望は、遺言でかなり自由に指定できます。これを「指定相続分」と言います。
ただし、相続人には最低限守られるべき取り分「遺留分(いりゅうぶん)」がありますので、あまりに極端な配分をすると、後から「遺留分を侵害された」として請求される可能性があります。
一方で、遺言がない場合、または一部の相続人にしか遺言で相続分を指定していない場合には、残りは法律で決められた割合(法定相続分)で分けることになります。
■遺言がない場合の「法定相続分」の基本ルール
遺言がないときは、民法で決められている割合で分けます。代表的なパターンは次の3つです。
① 相続人が「配偶者+子」の場合
配偶者が2分の1、子ども全体で2分の1です。子どもが複数いれば、その2分の1を人数で割って等分します。
例:財産が6,000万円、相続人が配偶者と子ども2人(Aさん・Bさん)の場合
配偶者は6,000万円×1/2=3,000万円
子ども全体で6,000万円×1/2=3,000万円
子A・子Bそれぞれは3,000万円×1/2=1,500万円となります。
② 相続人が「配偶者+父母など直系尊属」の場合
配偶者が3分の2、直系尊属(父母・祖父母など)全体で3分の1です。直系尊属が複数いる場合は、その3分の1を等分します。
③ 相続人が「配偶者+兄弟姉妹」の場合
配偶者が4分の3、兄弟姉妹全体で4分の1です。兄弟姉妹が複数いれば、その4分の1を等分します。
なお、片親だけが同じ兄弟姉妹の相続分は、両親ともに同じ兄弟姉妹の相続分の2分の1とされています。
また、現在は「婚姻外の子(いわゆる非嫡出子)」も、婚姻中に生まれた子と相続分は同じです。昔は半分とされていましたが、今は差をつけない扱いになっています。
■子どもが先に亡くなっている場合(代襲相続)
よくある質問が「相続人であるはずの子どもがすでに亡くなっている場合は?」というケースです。
このときは、その子どもの子ども、つまり孫が代わりに相続します。これを「代襲相続」といいます。
先ほどの例で、子Aがすでに亡くなっていて、Aに子ども(Aa・Ab)が2人いる場合を考えます。
本来の子Aの取り分は1,500万円でしたから、この1,500万円をAa・Abで等分します。
Aaが750万円、Abが750万円というイメージです。
さらに孫も亡くなっている場合は、そのまた子どもが代わりに相続する「再代襲」もあり得ます。
■生前贈与は「特別受益」として調整されることがある
ここからが、事業主や資産家の方にとって特に重要なポイントです。
相続人の中に
・生前に多額の贈与を受けている人
・結婚や養子縁組のときに多額の援助を受けた人
・事業を継ぐために株式や事業用資産の贈与を受けた人
がいる場合、その贈与は「特別受益(とくべつじゅえき)」として扱われます。
イメージとしては、「すでに前渡しで相続を受けている分がある人は、その分を差し引いて最終的な取り分を調整しましょう」という考え方です。
具体的には、
① 相続開始時点の財産に、生前の贈与や遺贈の価額を足して、「みなし相続財産」を計算する
② その総額に各人の法定相続分を掛けて、いったん持ち分を求める
③ 生前に贈与等を受けていた人については、その価額をそこから差し引く
という流れになります。
事業承継の場面で、後継者に自社株式や事業用不動産を贈与している場合、基本的には「生計の資本としての贈与」と見なされ、特別受益に該当します。つまり、生前にしっかり承継対策をしたつもりでも、相続時の分け方の話し合いで「もう十分もらっているじゃないか」と他の相続人から調整を求められる可能性がある、ということです。
■家族の貢献を評価する「寄与分」
逆に、ある相続人が被相続人の財産を増やしたり、維持するのに特別に貢献していた場合は、その人の取り分を増やす「寄与分(きよぶん)」という仕組みがあります。
例えば、
・親の事業に長年無償または低賃金で働いてきた
・親の入院費を長年負担していた
・親の介護をほぼ一人で担っていた
といったケースです。
相続人同士の協議で寄与分の額を決めるのが原則ですが、話し合いでまとまらない場合は家庭裁判所が決めることになります。
大事なポイントは、「寄与分が認められるのは相続人だけ」という点です。たとえば、長男の妻が長年、義理の親の介護をしていても、そのままでは寄与分は認められません。
■相続人以外の貢献は「特別の寄与」でお金を請求できる
上のように、長男の妻など“相続人ではない人”の貢献をどう評価するのか、という問題がずっとありました。
そこで導入されたのが「特別の寄与」という仕組みです。
相続人ではないけれど、被相続人の療養看護や事業などに特別な貢献をした人(特別寄与者)は、相続開始後に相続人へ「特別寄与料」を請求できます。これは令和元年7月1日以後に始まった相続から使える制度です。
税務上は、この特別寄与料は「みなし遺贈」とされ、受け取った側に相続税がかかり、さらに相続税額の2割加算の対象にもなります。一方で、特別寄与料を支払う相続人は、自分の相続税の計算上、その支払額を課税価格から差し引くことができます。
家族の中で、介護を一手に引き受けてくれたお嫁さんなどの立場をきちんと評価したい場合に、押さえておきたいポイントです。
■特別受益・寄与分には「10年の壁」がある
特別受益や寄与分を使って、いわゆる“具体的相続分”で調整して遺産分割するには、時間制限があります。
相続開始(亡くなった日)から10年を過ぎてしまうと、原則として、こうした調整はせず、法定相続分または遺言で指定された相続分に従って分けることになります。
ただし、例外として
・10年経過前に家庭裁判所に遺産分割の請求をしている場合
・10年の満了前6か月以内に、どうしても遺産分割の請求ができない特別な事情があり、その事情がなくなってから6か月以内に家庭裁判所に請求した場合
には、10年を過ぎても特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分で分けることが可能です。
■事業主・資産家が押さえておきたい実務的な視点
ここまでを踏まえて、事業主や資産家の方が特に意識しておきたいのは次のような点です。
・遺言で相続分をきちんと指定しておくことで、法定相続分どおりにならない柔軟な承継ができる
・後継者に株や不動産を生前贈与すると、相続時に「特別受益」として調整対象になる可能性があるので、どこまでを前渡しと考えるか、他の相続人とも含めて早めに設計しておく
・長年事業や介護に貢献してくれた家族については、「寄与分」や「特別の寄与」の制度も視野に入れておく
・相続発生から時間がたつと、特別受益・寄与分による調整が使えなくなるケースがあるので、話し合いや専門家への相談は先送りにしない
相続は「法律の話」「税金の話」というイメージが強いですが、実際には「家族関係の話」でもあります。誰にどれくらい渡したいのか、その考えを形にするために、遺言・生前贈与・株式や不動産の承継方法などを総合的に設計することが、結果的に節税にも、家族円満にもつながります。
ここでお伝えした内容はあくまで基本的な考え方です。実際の相続や事業承継では、財産の内容や家族構成、これまでの贈与の履歴などによって最適な対策が大きく変わりますので、具体的な検討に入る際は、税理士や弁護士など専門家への相談をおすすめします。
※この記事は税理士事務所の見習いスタッフが日頃の業務で感じたことや素朴な疑問をコラムとして掲載しております。念のため専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は責任を負いかねますので、個別具体的な案件に関する疑問やご相談がある場合には、弊所代表税理士「うめちゃん先生」まで直接問い合わせを頂くか、「お問合せフォーム」からお問合せ下さい。無料相談会も随時実施していますので(完全予約制)お気軽に活用ください。
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