「相続」は節税テクニックの前に知っておきたい“ルールブック”です

相続が発生したとき、いったい何がどう動くのか。
事業主や資産家の方にとっては「相続税いくらかかる?」が真っ先に気になるところだと思いますが、その前提として「法律上、財産や権利義務がどう引き継がれるのか」を押さえておくことがとても重要です。ここが分かっていると、節税や事業承継のプランもぐっと立てやすくなります。
このページでは、専門用語はできるだけかみ砕きながら、相続が始まったときに起こることを整理してお伝えします。
まず、相続は「亡くなった瞬間」から始まります。
人は生まれたときに権利を持てるようになり、亡くなったときにその権利能力が終わります。亡くなった方(被相続人)が持っていた財産や借金などは、その人自身にはもう帰属できなくなるため、法律上、自動的に相続人へバトンタッチされる仕組みになっています。
このとき引き継がれるのは、被相続人の権利義務のうち、「一身専属権」と呼ばれる、本人だけに意味があるものを除いたほぼすべてです。たとえば、芸術家としての人格的な権利や、本人の技能・資格そのものなど、明らかに本人固有のものは相続されず、相続開始とともに消えてしまいます。一方で、所有権や賃貸借契約の地位、売掛金、借入金など、財産や経済活動に関する権利・義務は、原則としてそのまま相続人へ移ります。相続人が相続の開始を知っているかどうかに関わらず、法律上は自動的にそうなる、という点もポイントです。
これとは別に、系譜(家系図など)、祭具、墳墓といった「ご先祖を供養するためのもの」は、一般の相続財産とは扱いが異なります。これらは、慣習に従って「祖先の祭祀を主宰すべき人」が承継するとされています。被相続人が生前に「誰に祭祀を任せるか」を指定していれば、その人が引き継ぎます。相続税対策とは直接関係ない部分ですが、資産家のご家庭ではお墓や仏壇などをめぐって感情的なトラブルになることもあるので、「誰が受け継ぐのか」をあらかじめ話し合っておくと安心です。
次に、「相続財産にかかる費用」は原則として相続財産の中から賄います。
たとえば、相続したアパートの管理費や固定資産に関係する地代家賃など、財産を維持・管理するための費用がこれにあたります。ここで注意したいのは、「相続税そのもの」はこの『相続財産に関する費用』には含まれないという点です。相続税は、財産を相続によって取得したことに対して課税されるものであり、財産の管理費用とは別扱いになります。
また、相続人の過失によって余計な費用が発生した場合、その費用はその相続人だけの負担になります。他の相続人まで巻き込まれないように、管理を任された方は注意して動く必要があります。
最近の法改正で大きく変わったのが「相続財産の保存」の仕組みです。
以前は、相続財産が誰にも管理されていないようなケースに備えて、家庭裁判所が相続財産管理人を選任できる制度が段階ごとに用意されていました。しかし、共同相続で遺産が共有状態になっている場合や、相続人がいるのかはっきりしない場合など、規定のすき間があり、必要な処分ができない状況もあったのです。
そこで、令和5年4月1日からは、相続の段階にかかわらず、相続が始まればいつでも家庭裁判所が「相続財産管理人の選任」や「保存のために必要な処分」を行える、という包括的な制度に改められました。事業や不動産を多く持つ方にとっては、「もし相続人がすぐに動けない状況でも、財産を守るための公的な仕組みが整った」と理解しておくと良いでしょう。
相続人が複数いる場合、相続財産は一旦、みんなの共有になります。
誰か一人のものになるわけではなく、「法定相続分」などに応じて共有持分を持つイメージです。各相続人は自分の相続分に応じて、被相続人の権利や義務を承継します。令和5年4月1日からは、共有に関する規定を適用するときの「持分」は、民法で定められた相続分(900条〜902条)をそのまま共有持分として扱うことが明確になりました。
事業承継の場面では、この「いったん共有になる」という性質が非常に重要です。たとえば、事業用の不動産や株式が兄弟姉妹で共有状態になってしまうと、意思決定がしにくくなり、経営のスピードや安定性に大きな影響が出ます。節税だけでなく、「誰にどの資産を集中させるか」という設計が、相続対策の大きなテーマになる理由はここにあります。
さらに、共同相続における権利の承継には「第三者に対抗するための要件」もあります。
相続によって権利を引き継いだとしても、法定相続分などを超える部分については、登記や登録などの対抗要件を備えていないと第三者に主張できません。
もし承継した権利が「債権(売掛金など)」であれば、法定相続分を超えてその債権を引き継いだ共同相続人が、遺言や遺産分割の内容を明らかにして、債務者に通知することで、共同相続人全員から通知があったものとみなされます。ここでも「きちんと手続きしておくかどうか」が、後々のトラブル防止や債権回収の確実性に影響してきます。
最後に、「相続した土地を国に引き取ってもらう」ための新しい制度について触れておきます。
所有者不明土地が社会問題化する中で、令和5年4月27日に「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(相続土地国庫帰属法)」が施行されました。この制度を使えば、相続などで土地を取得した人が一定の条件を満たし、法務大臣の承認を得ることで、その土地の所有権を国に返すことができます。
背景には、過疎地などを中心に「相続で土地はもらったが、使い道もないし、固定資産税や管理コストだけが重い」というケースが増えていることがあります。結果として管理が行き届かず、土地が荒れたり、近隣トラブルの原因になったりすることも少なくありません。
この制度を利用できるのは、相続または相続人に対する遺贈によって土地を取得した方に限られます。共有名義の土地の場合には、共有者全員で申請しなければならない点にも注意が必要です。すべての土地が対象になるわけではなく、条件や負担金もありますが、「どうしても使う予定がない土地」を整理する選択肢の一つとして知っておく価値があります。
まとめると、相続が始まると、亡くなった方の財産や権利義務は、原則として自動的に相続人に包括的に引き継がれます。その中には、不動産や預金だけでなく、借金や契約上の立場も含まれます。一方で、本人にしか意味のない権利は消滅し、祭祀に関する財産は別ルールで承継されます。相続財産の管理・保存については家庭裁判所の制度が整備され、共同相続の場合は共有の仕組みや第三者に対抗するための要件が細かく決められています。加えて、「いらない土地を国に返す」という新しい選択肢も生まれています。
節税や事業承継を考えるうえでは、こうした「相続の仕組み」を土台として理解しておくことが不可欠です。そのうえで、具体的な税負担の試算や遺言・生前贈与の活用などは、税理士や専門家と相談しながら、ご自身やご家族に合ったプランを組み立てていくのが安心です。
※この記事は税理士事務所の見習いスタッフが日頃の業務で感じたことや素朴な疑問をコラムとして掲載しております。念のため専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は責任を負いかねますので、個別具体的な案件に関する疑問やご相談がある場合には、弊所代表税理士「うめちゃん先生」まで直接問い合わせを頂くか、「お問合せフォーム」からお問合せ下さい。無料相談会も随時実施していますので(完全予約制)お気軽に活用ください。
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