税理士事務所見習いスタッフコラム【相続対策編】教育資金の一括贈与は本当に得か? 2025年時点の最新ルールと注意点

「昔はオトクって言われてたけど、今はどうなの?」
「教育資金の一括贈与はトクですよ!」
銀行のパンフレットや、信託銀行のチラシで一度は見かけたことがあるフレーズじゃないでしょうか。
一時期はテレビやネット記事でもよく取り上げられて、「おじいちゃん・おばあちゃんが孫に1,500万円まで非課税!」というキャッチーな文句が一人歩きしていた印象さえあります。(国税庁)
でも、実際に相談を受けていると
- 「本当にそんなにトクなの?」
- 「うちの家計・資産状況に当てはめるとどうなんだろう?」
- 「制度が改正されたって聞いたけど、もう使わないほうがいいの?」
と、モヤモヤした疑問や不安をお持ちの方がとても多いです。
そこで今日は、「教育資金の一括贈与」の基本から、ここ数年の改正で変わったポイント、そして2025年以降(2026年3月末まで)の使い方まで、なるべく噛み砕いてお話ししていきます。
条文を丸暗記する必要はありませんが、「押さえるべきツボ」だけ拾っていただければOKです。
「教育資金の一括贈与」ってそもそも何?
まずは制度のざっくりしたおさらいから。
正式名称は「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税」
と言います。長いので、ここでは「教育資金一括贈与」くらいで呼びますね。
制度のイメージはこんな感じです。
- 贈与する側:おじいちゃん・おばあちゃん、父母などの直系尊属
- 贈与を受ける側:30歳未満の子や孫(受贈者)
- 金額:1人あたり最大1,500万円まで贈与税が非課税
(うち塾・習い事など「学校以外」分は最大500万円まで) - 期間:2013年4月1日〜2026年3月31日のあいだに拠出したものが対象
- 手続き:信託銀行などと「教育資金管理契約」を結び、金融機関経由で「教育資金非課税申告書」を税務署に提出
ここまでだけ聞くと、
「え、1,500万円まで非課税?すごい!110万円の基礎控除とは桁違いじゃん!」
という感想が出てくると思います。実際、通常の贈与と比べるとかなり大きな非課税枠です。
制度の目的としては
- 少子化対策(子育て・教育費への不安軽減)
- 高齢世代に偏在している金融資産を動かして、消費や投資につなげたい
といった、いわゆる「政策的な狙い」が背景にあります。
教育資金ってどこまでが対象になるの?
「教育資金」と聞くと、真っ先にイメージするのは
- 入学金
- 授業料
- 施設費・実習費 …など
いわゆる学校に払うお金ですよね。
実はこれに加えて、
- 学習塾
- 予備校
- ピアノやスイミングなどの習い事 …など
学校以外に支払う費用も、一定の範囲で教育資金として認められます(その分の上限が500万円)。
ただし、ここが少しややこしいポイントで、
- 受贈者が23歳を過ぎたあとの「学校以外」への支払いについては、対象外になるものが多い
- 代わりに、教育訓練給付の対象となる講座や、職業訓練的なものは引き続きOK など、年齢・内容によって線引きが細かくなっています
「なんでもかんでも『勉強っぽいもの』ならOK」というわけではないので、このあたりは金融機関や税理士に事前に確認しておくのがおすすめです。
実務でよくある声:「思ったより使い勝手がよくない…?」
ニュースやパンフレットの印象だけで見ると、「すごくオトクな制度」に見えますが、実務でお話を伺っていると、こんな声も少なくありません。
①「うちの孫に、そんなに教育費かからないかも問題」
よくあるパターンがこちらです。
- お孫さんはまだ小学生
- これから中学・高校・大学と進学予定だが、公立中心の可能性もある
- 仮に私立や文系大学でも、トータルで1,500万円まではいかないケースも意外と多い
「せっかく非課税枠があるなら、満額の1,500万円まで入れておこう!」と契約してみたものの、
結局使い切れずに残高が残ってしまった…
ということも普通に起こります。
この使い残しが曲者で、受贈者が30歳(在学中等なら最長40歳)になったときに残っていた分には、その時点で贈与税が課税されるルールになっています。
② 書類と管理が想像以上に大変
もう一つよく聞くのが、手続き・書類管理の手間です。
- 教育資金として払った分は、領収書を金融機関に提出して、そこで初めてお金を払い出してもらえる
- 海外留学や長期の語学学校になると、英語の請求書や入学証明書の取り寄せ・翻訳などで手続きがさらに複雑になる
- 「忙しくて領収書を出しそびれてしまった」→あとからまとめて出そうとしたら、金融機関から細かい確認が入ってヘトヘト…
といったエピソードも、実際のご相談の場面でよく出てきます。
あるお客様は、結局こうおっしゃっていました。
「ここまで手間がかかるなら、
素直に都度贈与して、暦年課税で申告した方が気が楽だったかも…」
制度そのものが悪いわけではないのですが、「手続きの煩雑さ」は間違いなくデメリットの一つです。
2025年時点の最新ルール:何がどう変わっている?
ここからが、本題の「制度改正」の話です。
実は「2025年にドンと大改正」というよりは、2019年以降、数年かけて少しずつ見直されてきたというのが正確なところです。
特に押さえておきたいポイントを整理すると、次のとおりです。
- 非課税限度額は「いまも1,500万円」のまままず大前提として、
非課税の上限額が1,500万円→1,000万円に引き下げられる改正は、現時点では行われていません。
2025年時点でも、受贈者1人あたり
- 学校等への支払い分を含めて 合計1,500万円まで非課税(うち学校以外は最大500万円)
という枠組みは維持されています。
※「1,000万円」という数字は、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠(最大1,000万円)と混同されやすいので注意が必要です。
- 適用期間は2026年3月31日まで延長
教育資金一括贈与は時限措置で、何度か延長されてきました。
最新のルールでは、2026年(令和8年)3月31日までに拠出されたものが対象とされています。
つまり、「2025年以降も使えるけれど、ずっと続くとは限らない」制度です。
延長されるかどうかはその都度の税制改正で決まるので、ギリギリまで様子見していると慌ただしくなりがちです。
- 所得制限:受贈者の前年所得が1,000万円超だと使えない
ここ数年の改正で導入された大きなポイントが所得制限です。
- 教育資金管理契約を結ぶ前年の合計所得金額が1,000万円を超える受贈者は、この非課税制度の適用を受けるこ
とができません。
高所得の社会人のお子さん・お孫さんに対しては、「教育資金一括贈与で、あとから大学院や資格の勉強に使ってね」という使い方がしにくくなっている、ということですね。
- 相続税との関係が「やや厳しめ」にそして、相続対策として使う方にとって一番重要なのがここです。もともと、教育資金一括贈与は
- 契約期間中に贈与者が亡くなった場合、使い残しが相続税の対象になるケースがある
- 契約終了時に残った金額には贈与税が課税される
といったルールがありましたが、ここ数年の改正で、 - 贈与者の相続財産が5億円を超えるような富裕層の場合、受贈者の年齢や在学状況に関係なく、使い残しが相続財産に加算される
- 契約終了時の使い残しに対する贈与税は、特例税率ではなく一般税率で計算する(税率が重くなる人が増える)
など、「相続税の節税目的で過度に使われること」を抑える方向の見直しが行われています。
ざっくり言うと、
「教育資金一括贈与=相続税がガッツリ減る“魔法の制度”」という位置づけからは、かなり距離がある
というのが、2025年時点での正直なところです。
結局、どんな人に向いていて、どんな人には向いていないの?
ここまでを踏まえて、「どんなご家庭に向いているか?」を、よくあるケース別に整理してみます。
Aパターン:教育費の支出がすでに“見えている”ご家庭
- すでに私立小・中・高・大学などに在学していて、今後も授業料負担が重い
- 医学部や歯学部、海外大学など、長期で高額な学費になる見込みが高い
- お孫さんが複数いて、それぞれにある程度の額を出す予定がはっきりしている
こういったケースでは、教育資金一括贈与を上手く使うことで
- 大きめの学費負担を前倒しで支援できる
- 一定の相続税対策にもなりうる(ただし5億超の富裕層は要注意)
というメリットがあります。
Bパターン:相続税はかかりそうだが、教育費も重いご家庭
- 贈与者の資産規模から見て、将来的に相続税の負担が出てきそう
- 一方で、子世帯・孫世帯の教育費の負担がかなり重く、早めに支援したい
- ただし、贈与者の相続財産が5億円を超えるような「超富裕層」ではない
こういった場合は、教育費を助けつつ、一定の相続税対策にもなる手段として検討する価値があります。
ただし、「教育資金一括贈与だけで相続税がゼロになる」といった発想は危険なので、必ずシミュレーションをしたうえで判断したいところです。
Cパターン:教育費の見通しがまだよく分からないご家庭
- お孫さんがまだ小さく、今後公立か私立かも未定
- 大学進学自体もどうなるか分からない
- 祖父母世代もまだまだお元気で、資産を一気に動かす必要性は薄い
こういったケースでは、無理に一括贈与を行うよりも
毎年110万円の暦年贈与の非課税枠をコツコツ使う方が、かえってシンプルで安心ということも多いです。
暦年贈与であれば、使い残しが30歳時に一気に課税されるリスクもありませんし、手続きもずっと楽です。
「暦年贈与」とどう使い分ける?
最後に、教育資金一括贈与とよく比較される暦年課税(1年110万円の基礎控除の贈与)との使い分けについても、簡単に触れておきます。
教育資金一括贈与の特徴
- まとまった金額(〜1,500万円)を一気に動かせる
- 教育費に限定されるが、そのぶん非課税枠が大きい
- 手続きがやや複雑で、領収書管理が必須
- 使い残し・相続発生時に、贈与税・相続税の対象になるケースあり
暦年贈与の特徴
- 年110万円までなら誰に対しても用途自由・手続きも簡単
- 「今年はいくらまで」など、様子を見ながら柔軟に調整できる
- 長期で見れば、複数年かけて相続財産を徐々に減らすことも可能
- ただし、いわゆる「名義預金」とみなされないよう、通帳・印鑑の管理や贈与契約書の作成などの配慮は必要
教育資金一括贈与は、「教育」という目的に資金の使い道を縛る代わりに、一気に大きな非課税枠を使える制度です。
逆に暦年贈与は、「金額は小さいけれど自由度が高く、シンプル」というイメージですね。
結論:人による。でも、昔ほど“絶対オトク!”とは言いにくい
ここまで見てきたように、教育資金一括贈与は
- 条件が合えばたしかにメリットの大きい制度
- でも、「誰にとってもオトクな万能薬」ではない
というのが、2025年時点でのリアルな評価だと思います。
私自身、相談の場面で感じるのは、
- 「やってよかった!」というお客様
- 「ここまでしなくても、暦年贈与で十分だったかも…」というお客様
がほぼ半々くらい、ということです。
大事なのは、
- 本当に1,500万円分の教育資金を使う見込みがあるのか
- 贈与者・受贈者それぞれの年齢・所得・資産規模はどうか
- 相続税がどの程度かかりそうなのか
- 手続きや領収書管理の手間を、家族がきちんと負えるか
こうした点を冷静に整理したうえで、「うちの家族には必要か?」を考えることです。
制度は変わる。だからこそ“家族ごとに”シミュレーションを
税制は毎年のように見直しがあります。
教育資金一括贈与も、制度が始まった2013年から何度も改正されてきましたし、今後も適用期限の延長や内容変更が議論
される可能性があります。
ですので、
「ネット記事でオトクと書いてあったから」
「昔、銀行で勧められたから」
といった理由だけで飛びつくのは、正直かなり危険です。
今の自分たち家族の状況と、最新の制度内容を並べてみて、
- どのくらい相続税や贈与税に影響がありそうか
- 本当にこの制度を使う必要があるのか
- 代わりに暦年贈与や他の生前贈与のほうが合っていないか
を、数字も含めてシミュレーションすることを強くおすすめします。
「うちの場合はどう考えたらいいの?」と感じた方は、ぜひ一度、税理士にご相談ください。
教育資金一括贈与に限らず、相続全体のバランスを見ながら、一緒に最適なプランを考えていければと思います。
※この記事は税理士事務所の見習いスタッフが日頃の業務で感じたことや素朴な疑問をコラムとして掲載しております。念のため専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は責任を負いかねますので、個別具体的な案件に関する疑問やご相談がある場合には、弊所代表税理士「うめちゃん先生」まで直接問い合わせを頂くか、「お問合せフォーム」からお問合せ下さい。無料相談会も随時実施していますので(完全予約制)お気軽に活用ください。
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